障害者専門の歯科診療施設「京都歯科サービスセンター中央診療所」(京都市中京区)で昨年始まった全身麻酔治療が好評だ。知的障害者の中には、治療への強い抵抗感から一般の歯科医院に通いにくい人が多く、全身麻酔は患者のストレス軽減や治療時間の短縮に効果を挙げている。ただ、受け入れ患者数が限られているため、治療前の医師面談を受けるだけでも8カ月待ちで、診療態勢の早期拡充が望まれている。
同センターの全身麻酔治療は、毎週火、木曜日のみ行われている。午前9時すぎ、自閉症の加藤聡さん(36)=宇治市=が普段着のまま麻酔診療室に入り、自分で診療台に横たわった。「いーち、にー」と数える歯科医の声を聞くうちに眠りに落ち、約1時間で折れた前歯の治療が終了。病院と違い、その日の内に帰宅できた。
知的障害者や自閉症の人の中には、口への異物挿入だけでなく、初めて見る相手や場所に強いストレスを感じる人もいる。府歯科医師会が運営する同診療所には、障害の特性をよく知る歯科医や歯科衛生士が配置され、治療前の通院訓練も含めて同じスタッフが担当する。こうした専門的対応のできる機関としては府内唯一で、丹後・中丹地域からも患者が通っている。
昨年4月以降、延べ164人が全身麻酔を受けた。自傷などを防ぐため患者の手足を抑制する器具を使う場合もあるが、「不必要な抑制は減り、治療の選択肢が増えた」と水野和子・同センター長(46)は話す。偏食傾向から虫歯が進行している患者も多く、「少しずつ治療をしていては完治より再発する方が早い。全身麻酔できれいな歯に戻すと、歯磨きを介助する家族のモチベーションもあがる」という。
希望者が多いだけに、今から申し込んだ場合、治療前にまず必要な医師面談が12月ごろになるという。全身麻酔のできる障害者専門の施設は全国で増えているが、兵庫県には複数あるものの滋賀県には一つもなく、ばらつきがある。府歯科医師会の田中寛彰常務理事(60)は「京都でも受け入れ態勢は十分でない。北部に同様の施設がないことも合わせて、今後の課題だ」としている。