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2011.04.07更新

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110407-00000112-san-soci

東日本大震災の被災地では断水や歯ブラシ類の不足で歯磨きができず、口内環境が悪化しがちだ。口臭や虫歯だけでなく、口の中で繁殖した細菌が誤って肺に入って起こる「誤嚥性(ごえんせい)肺炎」やインフルエンザに感染する恐れもある。物資の少ない環境でできる「口腔(こうこう)ケア」を紹介する。(古川有希、織田淳嗣) 

肺炎の恐れも

被災地を巡回した歯科医によると、避難所で暮らす被災者からは「歯ぐきが腫れた」「義歯をなくした」といった相談から、「歯ぎしりがひどいのでマウスピースを作ってほしい」といった集団生活ならではの悩みも寄せられたという。

松島海岸診療所(宮城県松島町)の嘱託歯科医師、井上博之さん(64)は震災発生から12日目、東松島市の小野地区で要介護者らを診察。入れ歯の利用者の多くは震災以降、入れ歯をつけっぱなし。利用者からは「洗浄剤はないですか」と切実な訴えがあったという。診察前には既に肺炎で入院した人もおり、誤嚥性肺炎の可能性があるという。

高橋歯科医院(東京都品川区)の高橋美貴医師(32)は「とにかく口内の食べかすや歯垢(しこう)を取り除いてほしい」と呼びかける。歯ブラシがなくても「ティッシュペーパーや綿棒、スポンジなどで歯のぬめりや、(雑菌の多い)舌を掃除することができる」。歯磨き粉はうがいですすぐ前提の商品がほとんどなので、水がない場合は使わない方がいいという。

ブラシだけでも

井上医師によると、被災地には徐々に歯ブラシは届きつつある。「日頃、歯磨き粉を使っている人は慣れないかもしれないが、歯ブラシだけでも口の中を清掃するには十分。すみずみまでよく洗って」と呼びかける。

非常時用のグッズも販売されている。口腔ケア商品のハニックス(千代田区)では、歯の汚れを拭き取るウエットペーパー「クールウェイブ ペーパー歯磨き クールミント5包」(315円)を被災地に3万個送った。表面がでこぼこのメッシュ構造で、清涼剤が配合されている。

新百合山手アクザワ歯科医院(川崎市麻生区)の阿久澤信人院長(45)は「ペーパー類は入れ歯の洗浄にも有効」と話す。ペーパーの先を細かくこよりのようにし、入れ歯のかみ合わせ部分を磨く。指に巻き付ければ歯ぐきも磨きやすく、他人が要介護者の口に手を入れて使うのにも便利だ。

現地では野菜や果物が不足しており、阿久澤院長は「支援の食事はパンやご飯など歯の間に詰まりやすい」と指摘。歯ぐきの腫れなど悪化を食い止めるために洗口液の支援も望ましいとしている。

日本口腔ケア学会(名古屋市千種区)では、自分でうがいができない要介護者向けの口腔ケアの注意点をホームページ上(
http://www.oralcare-jp.org/ )で公開している。

意識と知識が必要に

阪神大震災や新潟県中越沖地震などで被災者の口腔ケアに取り組んできた、神戸常盤大短期大学部口腔保健学科の足立了平教授(57)は「今回の震災では歯科医療関係者の機運は高まっているが、一般の人に口腔ケアの知識や意識がない」と指摘する。被災地で歯ブラシを配っても「歯ブラシどころじゃない」と使ってもらえないケースが起きているという。

阪神大震災の震災関連死922人のうち、223人が肺炎で死亡したという。足立教授は「恐らく、多くは誤嚥性肺炎。口腔ケアをすることで半数の人は助かったのではないか」と分析。「虫歯予防というだけでなく、命を助けるためのケア」と位置付け、啓発を行っている。


投稿者: 藤村医院

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