子どもの頃から中耳炎を繰り返していたPさん、50歳。多少の耳だれ、痛みは慣れっこだが、最近のそれは血と膿まじり。心なしか聴力も落ちてきた気がする──。
中耳炎といえば乳幼児の病気という印象が強い。夜中に耳が痛いと泣き出した子どもを抱え、救急外来に駆け込んだ記憶がある方もいるだろう。急性の中耳炎 は鼓膜の内側にある「中耳」が感染し炎症を起こすもので、RSウイルスや肺炎球菌が原因菌。簡単に病院へアクセスできる今とは違い、ひと昔前はそのまま慢 性化することもまれではなかった。その名残で慢性の中耳炎を抱えている中高年は意外に多く、思わぬ合併症に驚かされることもある。
慢性中耳炎から発生する合併症の代表は、炎症を繰り返すうちに鼓膜に孔が開き、難聴と耳だれが生じる穿孔性中耳炎と、鼓膜どころか耳の奥に音を伝える 「耳小骨」を破壊してしまう真珠腫性中耳炎だ。こちらは鼓膜の皮膚組織が中耳の奥に向かって袋状に入り込み、一見、真珠のような白っぽい腫れ物をつくる。 良性のイボのようなものでがん化することはない。その代わりに、周りの骨を溶かしながら増殖するというやっかいな性質があるのだ。
骨破壊が進むと前述の耳小骨や三半規管が損なわれ、難聴やめまいが生じる。さらに中耳に接する頭蓋底部にまで進行すると顔面神経麻痺や髄膜炎を併発し、命にかかわることもある。耳の違和感や難聴を簡単に「年のせい」と片づけてはいけない。
加齢性の難聴はまず、電子音などの高音が聞き取れなくなるのが特徴。一方、真珠腫が疑われる場合は、電話の声や時計の秒針が進む音など、小さな音が聞きづらくなる。左右差が著しい場合は、一度、耳鼻科で検査をしてもらうと安心だ。
治療は手術が原則で傷ついた耳小骨や鼓膜を再形成する「鼓室形成手術」が必要だ。鼓室とは鼓膜の内側の中耳にある上下1センチメートルほどの小さな部屋 のこと。ここにコメ粒ほどの耳小骨がコンパクトに収まっている。鼓膜は厚さがわずか0.1ミリメートル、直径8ミリメートルほどで、この繊細な組織を再建 すると思うと、それこそめまいがする。合併症の進行度で手術の難易度も変化するが、全体に繊細な技術と高い専門性が要求される領域であり、納得できる病院 を慎重に選びたい。
日本医科大学病院では真珠腫性中耳炎患者に対し、外来で耳の清掃や抗生剤の点耳による治療を行った後、手術適応を判断している。術式の改良も進んでおり、聴力の回復も期待できる。
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